ノウハウ

2014.10.17
    『基準を決め、経営に活かす』という事

    コンサルタント梅村 康一

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    みなさんの会社でも~基準とか標準~とかいう言葉をよく聞くと思いますが、その意味するところを深く考えたことありますか?日常業務の中では、意外と掘り下げて考える機会っていうのはなかなか無いのかもしれません。今回のコラムでは、「基準を決める」とどんなメリットがあるのか?「決めた基準をどう経営に活かしていくべきか?」というテーマについて少し掘り下げて考えていきたいと思います。
    このテーマを考える上で「標準原価制度」を採用し始めて、約 2 年が経とうとしていた頃のある製造業のお客様の例が非常に分かりやすいので、その事例をベースに話を進めていきたいと思います。ちなみに、「標準原価」とは、製品の基本数量当たりの予定単価の事を言います。「標準原価制度」とは、「標準原価」を使用して制度会計および管理会計を運用する事を言います。

    ~「標準原価」にまつわるある 」にまつわるある企業の例~
    この会社では、基幹システムの刷新に伴い原価管理の方式を「実際原価制度」⇒「標準原価制度」へ移行しました。「標準原価制度」を採用してちょうど 2 年経とうとしている頃のある時、経理部長の方がある製品群について「標準原価」に対して「実際原価」が大きく上回っている事に気付きました。普段は、あまり気にしていなかったのですが、改めて良くみてみると意外と原価差異が大きく、違和感を感じました。その原価差異の内訳を見てみると、特に「労務費」に対して大きな原価差異が発生しています。そこで更に詳細な分析を進めていく事にしました。

    分析を進めていくうちに、「実績工数(実際の製造に掛っている時間)」が「標準工数(標準原価を算出するための製造予定時間)」を大きく上回っているために大きな原価差異が発生している事が分かって来ました。そこで、この「標準工数」を管理している製造担当者に「標準工数」と「実績工数」のかい離の原因について聞いてみる事にしました。そのヒアリングでは、以下の事が分かりました。
    ・製造担当者の認識では、「標準工数」は半期に 1 回予算作成時に設定し経営層に提出するものであり、いわば非現実的な目標値であり、理想にすぎないと思っている事。
    ・「標準工数」の他に「計画工数」という別の予定工数が存在する。月次の生産計画を、立案するのにこの「計画工数」という予定工数を使用している事。
    ・ 現場レベルでは「計画工数」に対して予実管理をしており、「計画工数」を死守するような指導や管理は徹底的に行われている事。
    ・「計画工数」の改善に日々努めている事。

    つまり、製造担当者の言い分として、「標準工数」と「実績工数」と比較しても差異が大きいのは当たり前、「計画工数」と実績を比較すれば差異は小さい、現場のマネジメントは「計画工数」を管理しPDCA もきちんと回しているので問題ない、というものでした。実際に経理部長の方が「計画工数」と「実績工数」の予実管理のデータを分析してみるとその差異は許容される範囲に収まっていました。確かに、製造担当者の言うように製造側の現場管理として「計画工数」という基準をベースにきちんとマネジメントがされていました。その後諸々の調査で判明したのですが、この「計画工数」というのは製造部内だけ使用されている現場管理の基準であり、他部署はこの存在を認知していませんでした。

    この経理部長は、会社としての基準は「標準工数」という基準を採用しているにも関わらず、製造部内では「計画工数」という別の基準で運用が行われている事に違和感を感じました。確かに製造担当者が言うように、製造部内のマネジメントにおいては問題が無い様に思えます。しかし、2つの基準でオペレーションがされている事が、本当に
    会社全体をマネジメントする上で、問題はないのだろうか?こんな疑問から経理部長は、もう少し広範囲に影響する業務プロセスで考える必要性を感じました。

    その広範囲に影響を及ぼす業務として、予算プロセスで検証してみようと考えました。予算プロセスを選んだ理由は、会社全体の予算の作成のため各部門を横断的に跨るプロセスだからです。この会社では、「標準原価制度」を採用してからは、予算作成時に「標準原価」を組み込んでいます。簡単に言ってしまえば「標準原価」×販売計画数量で「予定売上原価」を算出しています。標準原価制度を予算プロセスに組み込んでから、2 年が経っているのですが一昨年と昨年 2 回分の予算の予実データが存在しています。

    経理部長の方が気になって調査してみると、売上はほぼ予算通りの実績をあげているのに、売上原価は大幅に予算を超えていました。当然利益は、売上原価が超過した分予算に対して不足していました。この売上原価が超過した事について、当時の製造側から経営者側への報告は、標準原価制度という新しい制度を採用し不慣れによる誤差という程度の報告で済まされていました。経営者側も新しい制度を採用し、混乱もあるだろうという事で、あまり追求しませんでした。経理部長の方も当時は、別段と気に留めなかった事を思い出しました。
    しかし、経理部長の方は今回この調査を通じて当時の判断は、問題がある事に気付きました。また「標準原価制度」を採用する上でマネジメント上、非常に重要なポイントも分かってきました。

    「標準原価」を予算プロセスに組み込む場合の「標準原価」の本来的な役割は、1つは単純に「売上原価を算出するための製品単価」という役割、もう 1 つは製造サイドが今期の物作りをする際の「他部門に対してコミットした単価」という役割である事。予算プロセスは、そもそも営業サイドが売上予算をコミットし、製造サイドが製造コストをコミットする。その双方のコミットの結果、会社としての粗利予算をコミットできるという事。この双方のコミットを前提に予算プロセスが存在し、予算に対する予実評価を行わなければ、予実の評価そのものが意味を失ってしまうという事。しかし、現状の自社の予算プロセスがまさに予実の評価が意味をなさない状態に陥っていると言う事。以上の考察から、経理部長は現状の問題は、製造側は何もコミットもしていない「標準原価」という単価を使用して予算プロセスを回している事と確信しました。また、同時にせっかく製造側が「計画工数」という基準で製造管理をきちんとマネジメントしているにも関わらず、それが予算プロセスに反映させられていない事は、経営上非常にもったいない事だと気づきました。
    経理部長は、この「標準原価」という1つの基準を共有し、この基準をベースに会社全体が動くようにマネジメントする事が、組織に方向性を指し示す非常に効果的な結果をもたらすのでないかと考えました。早速、経理部長は製造部長のところに言ってこの事を改善しようと働きかけました。製造部長も今まで、標準原価制度そのものの意味合いを正しく理解出来ていなかったため、経理部長の順序だった説明を聞いて大いに納得しました。そして、次の予算プロセスから「標準工数」に使用する値は、現在「計画工数」で使用している数値を使う事としました。また、混乱を避けるためにも製造部内での「計画工数」という呼称を「標準工数」という呼称で統一し、2つの基準でのオペレーションを1つの基準でオペレーションする事にしました。

    この話は、標準原価制度を採用して 2 年目の出来毎だったのですが、その後この事をきっかけにコストを請け負う部門がコストに対して他部門にコミットをするという文化が生まれはじめました。そして現在では、経営層が経営としての改善目標を数値に落とし込み、それを各部門がコミットし、改善に繋げるという全社的な取り組みが日常的に行えるようにまで変わってきたそうです。

    ~「基準を決め、経営に活かす」事とは~
    この例は、経営にとって「基準を決める」という事の重要性を教えてくれる非常に分かりやすい事例だと思います。このケースでは「標準原価制度」という制度を採用しそれを予算プロセスに組み込んだ事により否応なしに、製品の予定単価という全社基準を決めざるを得ませんでした。全社基準を決めた事の効果は、以下にあると思います。
    1.全社的な基準を決めた事により、基準に対する実績のかい離が「見える化」された。
    製造という現場から、ある意味遠い部門である経理部長が疑問を感じられたのも基準を決めた事により、実績とのかい離が「見える化」されたからです。
    2.基準を全社的な部門横断のプロセスに持ち込む事により、基準に対して責任を持つ部門が他部門に対してコミットする必要性が生じた。
    この場合、最初の 2 年間はコミットされていない基準を使用しました。最初は誰もその事の問題に気づいていませんでした。しかし、3 年目にはコミットされていない基準を使用している無意味さに気付き、コミットされた基準を使用するようになりました。これは基準を全社的な部門横断のプロセスに持ち込んでいたため、基準自体が他部門にも晒される事となり、他部門からその誤差の指摘を受ける事ができたのです。

    そして、決めた基準を経営に活かすという意味でもうひとつ重要な事は、その時発生した疑問をきっかけに採用している制度そのものの本質と向かい合い、経営に活かすためのアクションを起こした経理部長の姿勢だと思います。

    まずは、「基準を決める」そして次に、「その基準をどのように経営に活かしていくか?」を考え、仕組みとして経営の中に取り込んでいく、これこそマネジメントプロセスの構築において非常に重要な姿勢だと思います。今回は「標準原価」という基準を例にお話をしましたが、他にも「基準を決める」事によって、経営に活かされるような事ってたくさんあると思います。是非一度考えてみてはいかがでしょうか?

    コンサルタント梅村 康一

    電子部品生産管理部にて需給計画・需給調整業務に従事。2001年より外資系パッケージベンダにて製薬メーカーの需要計画需給計画業務の実現、自動車部品の生産計画プロセス改善などの実績を残す。2007年マネジメント・プロセス・コンサルティング株式会社に入社、設備施工会社のシステム構築、業務改革、周辺機器メーカーのグローバルSCMプロジェクトなど、顧客サイドに踏み込んだコンサルティング活動を実施。