ノウハウ

2014.10.17
    見える化戦略の具体例~在庫の見える化 第一回

    コンサルタント太田 達也

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    私の所属している会社は“マネジメント・プロセス・コンサルティング(MPC)”というとても長い名前ですが、その名の通り“管理する”ということの“やり方やプロセス”を改善することを得意としています。そしてその“マネジメントプロセス”の大きな土台となっているのが、目で視る管理、すなわち“見える化”です。
    見える化という言葉はビジネス界においては既に一般的に使われる用語になっています。しかし、分かりやすい言葉なだけにその解釈や使われ方は非常に曖昧になっているケースが多いような気がします。例えば、システム導入の企画書や提案書をレビューさせていただく際に、その目的として“見える化”という言葉が入っていることがあります。しかし、「どういう状態が“見える化”ができている状態なのですか」「見える化によってどういう業務スタイルを実現したいのですか」という質問をすると多くの方は返答に窮してしまいます。
    MPC では「先行き見える化」「全体見える化」「問題見える化」「見える化 JIT」という 4 つのアプローチからなる「見える化戦略」という考え方に基づいて、見える化という言葉を具体的な活動に落とし込み、よりよい管理プロセスを構築していくお手伝いをしています。そこで、本コラムから 3 回に分けて、“在庫”というテーマを例にとって、「見える化戦略」とはどういうもので、それにより管理プロセスというものがどのように形作られていくのか、その具体的なイメージをご紹介したいと思います。少々硬い内容になってしまいますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

    【在庫の見える化】
    SCM における改善課題として常に挙げられるのが在庫の適正化です。我々がコンサルティングの依頼を受けてお客様先に伺うと、次のような現象にたまに遭遇します。
    経営層の方に話を聞くと、金額ベースでの在庫評価額や倉庫費用などを挙げて、過剰在庫を何とかしたいと言います。一方で現場にヒアリングにいくと、日々欠品を起こさないようにギリギリの調整業務をしていて、何とか改善したいので相談に乗ってくださいと言われます。何が問題なのですかと聞くと、いろいろと困っている点を挙げてはいただけるものの結局何が根本の問題なのかは分からない、という現象です。
    このような企業は大方、在庫の見える化が適切にできていません。何が問題なのか、原因は何なのか、問題は未然に防げるのか、誰がどのように監視すべきなのか、といったことを「見える化戦略」に従って1つずつクリアしていく必要があります。以下、在庫の見える化を実現する手順を一緒に追いながら、見える化のアプローチについて1つずつ説明していきます。

    1.問題の見える化
    先ほど、何が問題なのか分からない、という話がでましたが、その理由は“基準”が適切に決められていないことにあることがほとんどです。“問題”とは、「あるべき姿と実際とのギャップ」であるとすると、問題を見える化するためには、あるべき姿=基準を設定することから始める必要があります。
    在庫の場合は数量で基準を決めても、製品によって需要の絶対量がバラバラであるためあまり意味がありません。通常は、「在庫日数」という相対値を用います。在庫日数の定義はいろんな考え方がありますが、ここでは、以下のように定義しましょう。
    ・在庫日数=現在庫数量/1日あたりの平均所要

    つまり、在庫日数とは今の在庫でこの先何日分の所要を満たせるかという指標であり、当然多いほうが安全(欠品発生の確率が低い)ですが、多すぎても無駄があるということになります。
    では、基準としての在庫日数はいったい何日に設定するべきなのでしょうか。当然これは会社(部署)としての方針ということになりますが、問題見える化においてはこの方針の決め方やロジックが非常に重要になります。例えば、ある会社で在庫基準の方針を聞くと次のような回答が返ってくることがあります。「弊社の在庫管理の方針は在庫日数 20 日を基準としています」。このような会社はきちんと方針を決めているにもかかわらず多くのケースは過剰在庫・欠品の問題を抱えています。なぜかというと、(お分かりだと思いますが、)基準をどの製品も一律で 20 日と決めてしまっているからです。

    製品によって生産に何日もかかるものもあれば、1日でできるものもあります。また、需要が大きくぶれるものもあれば、ほぼ予測どおりのものもあります。このような状況の中では、ある製品群にとっては 20 日分という在庫は少なすぎて、欠品をなく回すためには過度な調整業務が発生します。そして次第に、欠品するよりはよいという理由で20 日を越える在庫を持つようになります。逆に本当は 20 日分も必要ない製品群については通常基準値を超えないので全く注意が払われなくなります。こうしているうちに、20 日という在庫日数を基準として問題を見ようとしてもあまり意味がないという認識が広がり、結局「在庫日数:20 日」というのはスローガン的な目標になりさがってしまうのです。

    では、問題を見えるようにするために最適な基準を設定するためにはどのようなロジックにもとづいて方針を決めればよいのでしょうか。そのポイントは2つ。「組合せ思考」と「セグメント化」です。
    「組合せ思考」とは単純な考え方で、例えば、在庫基準を決めるのに在庫のことだけ考えていても決まらないということです。そもそも在庫を持つ意味合いとしては、顧客に対して欲しい物をすぐに提供しサービスレベルを上げるという目的があります。サービスレベル 100%を維持するためには、いつどんな注文が来てもいいように全ての製品を全ての拠点で沢山在庫を持っておく必要があります。しかし現実的にはそんなことは無理なので、そこにトレードオフ関係が発生します。つまり、「在庫日数」と「サービスレベル」の 2 つの基準を組合せで考えないと現実的な基準値は求まらないということになります。先ほどの「在庫日数は一律で 20 日!」というようなスローガンとは異なり、どういう組合せを選ぶかということは 選ぶかということは即ち会社の「戦略」になります。在庫を沢山もってサービスレベル 100%を目指すのか、サービスレベルを 90%にしても少ない在庫を維持するのか、調整工数を増やして何とか両立させるのか、いろんな戦略が考えられます。

    戦略を考え始めると、「この顧客向け製品はサービスレベル 100%は死守しなくてはダメだな」「この製品は特殊仕様だから 5 日間くらいは待ってもらえるな」などと製品によってとるべき戦略が異なることに気付くはずです。そこで重要になってくるのが「セグメント化」です。次回は、この「セグメント化」の話から始めたいと思います

    コンサルタント太田 達也

    1995年外資系パッケージベンダー入社。生産管理及び計画領域を軸としたコンサルタントとして、グローバルSCMの構築や生産計画プロセスの改善などで実績を残す。2007年マネジメント・プロセス・コンサルティング株式会社に入社、大手外食チェーンの差プラチェーン改革、流通小売企業の全社経営改革など、クライアント企業の一員となってプロジェクトをリードするスタイルで活動。